音も無く差し延べられた阿選の手が琅燦のか細い肩に触れた時、彼女は思わず身を震わせた。その気配が阿選にも伝わったが、彼は意に関せず嫌に落ち着いた声音で語り出す。
「確かに迅速かつ強大な饕餮が動けば、主上も心強いでしょうな。しかし主上のお傍に饕餮や汕子を出してしまえば台輔はお独り。誠、使令が二つとは身の不運」
「……」
僅かに揺れるか細い肩の振動。それを阿選は楽しんでいた。
「そこにいち早く注目した貴殿は……」
阿選の顔が琅燦の耳元に近付き囁きかけた。
「流石聡明なお方でございます」
〜「雉も鳴かずば撃たれまい」より抜粋〜