桜が散っていた。ひらりひらり、微かな音を立てて、薄紅の花弁が舞い落ちる。その根元に、緋桜のような女王が坐していた。
そう、ほんとうに桜の樹になってしまったよう。
祥瓊は小さく息をつく。その音でさえ、大きく聞こえてしまうような静寂。それでも、陽子は身動ぎひとつしなかった。そんなとき。
静かな足取りで気紛れな旅人が現れた。祥瓊は思わず顔を蹙める。客人は少し唇を緩めただけで、ゆっくりと庭院に降りていった。
そのまま宮の主の隣に腰を下ろす風来坊の太子を、祥瓊はじっと見つめた。太子は何も言わずに女王を眺める。それは、あたかも花見をしているように楽しげで、しかもどこか切なげだった。
美しい緋桜は相変わらず動かない。よく続くものだ。少し呆れながらも、桜と同化した女王と、花見をする太子を見守る。
やがて、太子も桜を振り仰ぐ。風に揺れる枝が数多の花びらを散らした。太子は笑みを浮かべて手を伸ばす。まるで、桜との会話を楽しむかのように。
ああ、桜も気紛れな春風を待っているのだ。
祥瓊は初めてそう思った。桜がそれを望むのならば、もてなしの支度をしようか。祥瓊は深く頭を下げ、春風に緋桜を託したのだった。
了
2009十二国桜祭参加のご褒美に企画運営者の速世未生さんから頂きました。
未生さんが2009十二国桜祭でお書きになったものから好きなのを貰っていいよとの事でしたので。
沢山ありすぎて随分迷いましたけど。未生さんがお書きになった「桜語」というお話の直前を迎える祥瓊目線というこの作品に致しました。
「桜語」の一部とも取れるべきご作品なんで貰ってしまっていいかしらとも思うのですが。なんだか凄く忘れられない話なんで頂いてしまいました。
尚隆を思い動けずにいる陽子と。尚隆と陽子をずっと特別な思いを秘めながら見つめ続けていた利広。
この関係が桜と緋桜と春風という表現で実に美しくお書きになられているこのご作品。
語り部が祥瓊というのも堪らないです。何よりも陽子の幸せを願いたい彼女の思いもこの話には盛り込まれていて。贅沢な要素が短いお話に満載に盛り込まれていて凄く心に残りました。コレをゆっくり味わいながら「桜語」を読むと又格別なんだvv
十二国桜祭跡地にはこの全貌が読める「桜語」が楽しめます。
何がいいって尚陽を経た利陽!!
私の趣向にドストライクでノックアウトでございましたよ。
未生さん、作品いただきありがとうございました。
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速世未生さん本宅
2009.6.掲載