この話は、以前Albatross様の「浩陽増産プロジェクト」の「最も華麗なるゲーム」というリレー小説に参加した時のものを、自分の話だけ切り取って掲載しました。

この話「陽子嬢に恋人を公募!さて、この事態を如何答える?慶東国冢宰浩瀚」と言う感じ(こんな説明であってます?)の
企画物です。
多分自分の所だけでも、話は大体纏まっているつもりですが。もし、分り辛かったり、事の成り行きや続き等、
たっぷり楽しみたい方は是非ともAlbatross様まで。
そして、この企画はまだ完結していない。誰か、話進めてくれないかなぁ〜。




雁州国司令塔の華麗なる休暇


玄英宮では特別事件が起きた訳でもないのに、ばたばたと騒がしかった。

「こんな所で、のうのうと遊んでいられるか!俺が行かねば役者が揃わんだろう!」

どすどすと回廊を逃げる様に足荒く歩く、この王宮の主尚隆が、大声をはりあげる。

それを追いかける朱衡は、

「如何してあなたはここでの政務を《遊ぶ》等と。それに、役者が揃わないとは、勝手なあなたの

思い込みです!そう言う事に乗じて、ここから抜ける計画を考えないで頂きたい」

と、つられ声を荒げてしまう。

そして、尚隆の前に回り込むと、肩で息をしながらその進行を止めた。

尚隆は今度は目の前の朱衡に、手を合わせ、拝む様に頼み込む。

「な、今回ばかりは行かせてくれ。金波宮の、陽子の一大事なんだぞ。こうしている合間にも、

誰が陽子を射止めるか心配でならない。これでは仕事にも身が入らぬだろう」

『仕事等と、よくもぬけぬけと…』

朱衡は眉をぴくりと動かした。

『台輔も余計な物を持ってきたものだ…』




事の起こりは、延麒六太が、いやにそわそわしている事から始まった。

「どうした。下界(した)に降りて、何か悪い物でも食ったか」

「あっ!あぁあ。…いや、なんでも、ない。いつもと、変わんないよ」

尚隆に声をかけられ、普段以上に驚く六太。

くるりと踵を返し、この場から早急に立ち去ろうとする。

「おい、ちょっと待て」

尚隆は六太の肩に手をかけ、次には羽交い絞めの状態にした。

「なにか、怪しいな。六太。お前俺に隠している事があるだろう」

「…な、何にもない、です。…お願い、離し、て…」

六太は尚隆に捕まりじたばたする内、一枚の紙切れを落とした。

「ああ!拙い!」

六太が慌てて拾おうとする前に、その紙切れはあっさりと尚隆の手に渡ってしまった。

それを読んだ尚隆はにやりと口角を上げる。



   告知文


   私、中陽子の「恋人」に「我こそは!」と思う御仁を公募する。


   詳細は、浩瀚まで。


   慶国御璽:ちゅうようし



尚隆はこっそり抜け出るつもりだった。

しかし、つい先日も黙って市井へ降りている為、今回はそう簡単にはいかない。

すぐに朱衡に見つかってしまい、この有様である。

朱衡は尚隆の必死のお願いに、ふうと大きな溜息を零した。

そしてぎろりと冷たい眼差しを尚隆に向ける。

「御政務をある程度為さってからではないと、私どもも困ります。なにせ、《つい先日も》

居なくなったのですから。どうぞ、たまった用事を片付けてから、お考え下さいませ」

朱衡の表情に怯んだ尚隆は

「じゃ、じゃあ、貯めた仕事を片付ければ考えてもよいか?」

おずおずと聞いてみる。

「それもいたしかたないでしょう」

そうして優美な表情の中にも、勝ち誇った感の残る朱衡を先頭に、がっくりと肩を落とした尚隆は

ついていった。




「――なぁ、まだあるのかよー。」

目の間に積み上げられた書類が一向に減らない事に、尚隆はげんなりしていた。

御璽を機械的にぽんぽん書類に押しながら、何とかこの状態から早く抜けたいと考えている。

「仕方がないでしょう。すべて急ぎのものです。それにしても、いくらなんでも中身を見なさ過ぎに

見えるのですが、宜しいのですか?」

朱衡が声を掛けると

「俺には有能な官吏がおるからな。ざっと読みで事足りるのだ。本当に、俺はお前らがいて

心強いと思っている。感謝してるよ」

「すかさず、私に(こび)を売ろうとしても無駄ですよ」

「…はい…」

尚隆は慌てて仕事の続きをした。

「あぁ、それから、これにも御璽を」

朱衡は徐に袂から書類を出すと、それにも御璽を押させた。

『陽子。待っていろよ。今、今、行くからな』

尚隆は改めて己を奮い立たせると、残りの仕事に没頭した。




翌日、政務も一段落し、これで晴れて金波宮にいけると、尚隆が愛用の趨虞に乗り込もうと

やってきた。

そこで、趨虞が繋いである柱に、置手紙が張られているのを見つける。

それを読んだ尚隆は、足早に今来た道へと戻っていった。

尚隆が息せき切って向かった先は、官吏の政務状況や休暇願い等を管理している所である。

「急ぎ調べて欲しい。大司寇 楊朱衡の休暇願いは提出されているか?」

相手をした官吏は、滅多にみえない王の登場で、いささか驚きを隠せないでいたが、調べると

おずおずと答えた。

「…え、ええ。昨晩の間に受理されました。御璽も押されているので、間違いなく有効であると

みなされましたが…」

尚隆は置手紙を握り締めながら、いまいましそうに呟いた。

「おのれぇー、はかったな、朱衡」

その置手紙にはこう記されてあった。


―暫く休みを頂きます。事と次第によっては、戻ってこれないかも知れません 楊朱衡―


尚隆が王宮を抜ける事が出来ていたのも、朱衡らが後をしっかりと守っているという安心感から

である。

その大事な者の一人がいなくなっては、すぐ自分も動こう等とは、にわかには考えがたい。

朱衡は、おそらく尚隆のそういう心情も計算に入れて、今回の行動を起こしたかと思われる。

雁州国司令塔、恐るべし。




金波宮でその者と対面した浩瀚は、ふっと苦笑した。

「他国からの一番乗りが、まさか、あなたとは…。…少々、驚きましたな」

「何か、不都合でもございますか?」

眉目秀麗な表情を持つ、雁州国大司寇 楊朱衡は、やんわりと、しかしその眼光は明らかに挑戦的な

面持ちでそう答えた。




*********************




朱衡はかねてより、気になっていた事がある。

それを思い起こしていた。




現景王とは一度会った事がある。

何故か心に残る少女だと思った。

天が王と認めたのだ、そう思う事は自然な事だと心に収めた。

それからも尚隆様が胎果の誼だとか言って、何くれとなく彼女の話題を出すので、気にしないと

いう事はなかった。

話題に上る度、面白い王だと思った。

これで慶東国も、どうにか落ち着くのだろう。

隣国が一つでも安定するのは、我が国にとっても都合がよい。

私は、ほっとしつつも、早い段階でこの様に国を作り変えていく様が、不思議で仕方がなかった。

ある時、それを尚隆様に尋ねると

「それは…まあ…あれだな。支えている官吏の一人が、なかなかでもない奴だからな」

と苦笑いを浮かべていた事を覚えている。

「それは、一度いわれのない罪で、王より罷免を受け、それでも尚、現王を信じ、裏で真の陰謀を

暴くべく奔走したとかいう、元麦州候の事でしょうか?」

「ああ。現在は、その手腕をかわれ、冢宰をしている」

「…冢宰…」

確かにかなりな男なのだろうが、いきなり六官の長に収まるとは。

― 一体何者なんだ ―

その思いに駆られてからいく時たとうとも、気になって仕方がないと、己のしつこさに半ば呆れて

いた頃、今回の話を聞いた。

「丁度いい。一度行って、この目で確かめてみるか」




「…あれが慶東国冢宰、浩瀚、か…」

掌客殿に案内され、簡素ながらもよく整えられた中庭を見ながら、朱衡は一人呟いた。

慶東国にきて即面会したのは、どうもこの面白き趣向の首謀者の一人であるらしい、慶東国冢宰

であった。

少しの間彼と話をしたが、その印象は、けして出過ぎず、灰汁が強い訳ではないが、忘れられ

ない男というもの。

物腰は柔らかいが、調子に乗ると足元を掬いかねない、そんな怖さも感じられた。

「なるほど《なかなかでもない》とは、よく言ったものだ」

尚隆の言を思い出しながら、含んだ笑みを零す。

「あんなのが近くにいたんじゃあ、この国の国主の恋人に立候補した男は、前途多難だな」

陽子の御めがねに叶う相手が見つかるかどうか。

「まぁ、傍観者としては、面白い、かも、な」

そう朱衡は他人事のように、一人呟く。

彼は表向き参加という事で、慶東国へ乗り込んできたが、初めから真剣に参加しようとは思って

いない。

今回の事を口実にこの国をしっかり見聞しようと言う思惑が朱衡にはあった。

「おそらく、これから騒々しくなるだろう。今暫くはゆっくりしてみるか。それに、何だかんだ

言っても、日々の政務から解放された事だし」

言って朱衡は目を伏せようとすると、うろうろと回廊を歩いている、陽子に出会った。

「あっ、朱衡殿。あの、ここは。えっ!掌客殿?」

「の、様でございますね。如何されましたか?まさか、迷われた、と、か?」

図星である。顔を真っ赤にして、後退りする陽子。

口をぱくぱくさせながら

「えっと、今回の私の恋人公募の事で景麒からいろいろ言われ、煩いからと逃げていたのです。

それで、冢宰府に行けば、浩瀚が何とかしてくれるかもと思ったのですが。その、まだ、私は

王宮を把握しきれていないらしく。どうやら、全くの方向違いで、ここにきてしまったみたい、

です、ね」

と、必死で言い訳めいた事を、語っている。

「景麒。あいつ、さっきまで、気分が優れないとか言っていたから、ちょっと見舞いに行って

やったら、しっかり嫌味だもんな…って、ああ、すみません。本当に、なんでもないんです。

お騒がせ致しました」

陽子の様子を見て、朱衡は思わずくつくつと笑い出してしまった。

『わ、笑われた!恥ずかしい。恥ずかし過ぎる』

陽子は、ますます顔を真っ赤にし、あたふたと慌ててしまった。

「いえ…申し訳ございません。その、陽子様が、あまりに可愛らしいので、つい。あっと、

景王君を、陽子様とお呼びしてもよろしかったでしょうか?それに、可愛い等とは、聊か失礼

ですね」

目頭に、涙を滲ませながら、朱衡はにっこりと微笑んだ。

その笑顔に、陽子は何故か心臓が飛び出しそうなほど、どきどきした。

「いいえ、そんな事は…。こちらこそ、とんだ所をお見せしてしまって。あのう、私はこの通り、

気にしておりませんので、どうぞお楽になさって下さい」

どうにか、これだけは朱衡に伝える事が出来た。

くすりっと朱衡は、又も笑みを零すと陽子に話した。

「思いがけなくも、こうして陽子様とお会い出来たのです。少し、お話をさせて頂けませんか」




言われるまま、朱衡と同じ卓子につく事になった陽子だが、実際何を話していいのか分からず

黙ってしまっていた。

このままでは、間が持たない、そう思うのに、気の利いた事が言えない。

見れば朱衡は、相変わらず、微笑を浮かべながら陽子を見ている。

『ど、如何しよう』

陽子が落ち着かなくしていると、漸く朱衡が口を開いた。

「如何ですか。実際に、陽子様の恋人になろうと、はせ参じた者を、目の前にした感想は?」

陽子が、はっと顔を上げると、朱衡は面白そうに、又、にこにこ笑っている。

「雁州国は、陽子様の恋人公募の事で、色めきましたよ。我先にこちらに伺おうと、我が国主も

台舗もそわそわしておりました。まぁ、私がこうして先に参りましたので、予定がくるったと、

今頃、地団駄を踏んでいると思いますが」

「確かに。朱衡殿が見えるとは…意外でした」

「私では役不足ですか?」

艶っぽい視線と共に、そう朱衡に言われた陽子は、大慌てで否定する。

「そ、そういう意味ではなく。朱衡殿は雁州国から離れる事はないと、なんとなく、そう思って

いたものですから。一度お会いした時も、雁州国に、そして尚隆殿に仕える事が、自分にとって

どんなに意味のある事かと、大切そうに、話されていた事が印象的で」

言われた朱衡は、目を丸くし、陽子を凝視した。

そして次には軽やかに笑い出す。

それを見た陽子は、更にあたふたする。

「…あ、あの。何か、お気に触りましたか?」

「…いいえ、いいえ。その、先程から、私は失礼な事ばかりしている様で、申し訳ございません。

ただ、あまりに驚きまして。私ごときの事を覚えていらっしゃったばかりか、かように評価して

下さったとは。誠に光栄な事でございます。…そうですね。以前、そういった事を申しましたね」

朱衡は、表情を元に戻すと、改めて背筋を伸ばして、椅子に座りなおすと、陽子を見つめた。

「正直に申し上げますと、これを口実に慶東国を拝見したいと思ったのです。陽子様が玉座に

ついてから、この国が微力ながら確実に復興している事は、雁州国にいてもよく分かりました。

それが、とても興味深く。同時に、陽子様や陽子様を支えている者達にも、お会いしたいと

考えていました。ですが、今まで良い機会もなく。今回のお話を聞いた時は、思わず飛びついて

しまった次第でございます」

そうして、椅子からゆったりと降りると、膝をつき、礼をとろうとする。

「かような理由で、陽子様の真剣な恋人選びに参加してしまった事、お詫び致します」

「あっ、ちょっと、待って!」

陽子は椅子から立ち上がると、朱衡の傍へ駆け寄る。

そして、膝を折り、腰を屈め、

「顔をお上げ下さい」

と、朱衡の手に触れたとたん、その手をとられてしまった。

「なっ!」

思わず引っ込め様と陽子は試みるが、朱衡がそれを許さなかった。

そのまま手をしっかり握ると、

「失礼を」

そう言って、陽子の手の甲に口付けを落とす。

「…!!…」

ぱっと勢いよく引き、陽子の手が漸く朱衡から開放されると、陽子は手を胸に当て、急速に

高まった鼓動を落ち着けさせ様とする。

それを朱衡は、今まで見た事がないほど、あでやかな表情で見つめていた。

暫くすると彼はやんわりと口を開く。

「しかし、陽子様とこうしてお会いして、あなたのお人柄に触れ、私はすっかり《その気》に

なりました。あなたの恋人に選ばれるなら、こんな幸せな事はございません。これは、ほんの

ご挨拶代わりと受け止めて頂けますでしょうか」


『傍観者が面白い等と、そんな戯言は撤回だ。

これは、明らかに参加する方が面白い。

この、少女の艶やかな笑顔を我が物に出来るなら

あらゆる手ごわい相手と相打つのも、悪くはない』


陽子は朱衡の視線から目が離せなかった。

こんな状況はおそらく殆ど経験した事がない。

確かに数日前、浩瀚に額に口付けられた事はあったが、それは幸運のまじないだと言われた。

『そう。あちらの外国で、親しい間柄同士が交わす、信頼のキスみたいなものだと、納得

つけたんだ。浩瀚も、そうだと言っていたし。でも、これは、まさしく…』

陽子は、全身の血液が、朱衡に口付けられた手の甲に向かっている様に思えた。

手の甲は、とくん、とくん、と脈打っている。

何とか平静を装い、陽子は朱衡にこう告げる事が出来た。

「…お気持ちは、確かに預かりました。…そ、それでは、私は、これで…」

固まった表情のまま、ぎこちない足取りで、その場を去ろうとする陽子に、朱衡がとどめの

一言を発する。

「私が我が国主から受けた字は《無謀》でございます。この話、どんなに、私に、確立が

低かろうとも、僅かに機会が残されているならば、私のすべてをかけて、臨んで参ります。

どうぞ、お覚悟下さいませ」

それを、聞こえているのかいないのか、陽子は何も言わず、ふらふらとした足取りで朱衡の元を

後にした。
































































































































































































































































































































































































































































































































勝手イメージなんですけどね。ビジュアル的に朱陽はいけてると思うんですよ。ただ、まともに話を考えるとなると、
どうやって二人を対面させるか、まずそこがネックですよね。
だからこの企画が挙がった時に、即参加させましたわ、朱衡さん♪ いやぁ〜、書いた時は楽しかったっす。お陰さまで、尚隆氏を足止めさせ、尚陽好きぃの方には、申し訳ない事したけど。

さて、朱衡さんは、直情型のお人かと思うのです。無謀って字がついた経緯から、彼、気が短いんじゃねぇのって思っていて。
そして、浩瀚より、気持ちをストレートに表すんじゃないかなぁ〜と。だから、恋愛で好きかも知れないと認識したら、結構ぐいぐい押すかなぁと、そうだったら面白いなぁと思いまして、こんな話になりました。
私は朱衡さんは、攻め系の色男と思ってるんで。又機会があったら挑戦して見たいものです。

そうそう、陽子さんが数日前にデコにチューというのは、リレー小説中に出てきたエピソードです。
(詳細は「最も華麗なゲーム0.5章」で。浩陽ファンには堪らん触れ合いですよ)
何せこの企画、浩瀚はひたすら、耐える耐える耐えるなので。浩瀚(と浩陽ファン)に、ちょっと美味しい部分も欲しいよねって事なのですよ。
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2004.12初稿
2006.2改稿

素材提供 Kigenさま
禁無断転写