でも結局尚隆は、泰麒捜索の陣頭指揮をとる事に成りましたとさ。なぁーんていうオチはどうでしょう?(駄目、か)

これは「黄昏の岸〜」で陽子が李斎の話に胸打たれるが、尚隆に「まった」をかけられ、走って庭院へ行くシーンから、
妄想したものです。ぽっつーんと残された男達は如何したのかな?と言う事で。

私がイメージする浩瀚はこんな感じです。まだ、ぼやっとしか、出せなかった気がするんですけど…。
どちらかと言うと二歩も三歩も下がってと言うような。本当はあんまり話さないだろう的な。
仕事モ本当ハ、アンマリ好キジャネェダロ的ナ(爆)
うーん、うーん、切れ者なんだけど、それでガンガン問題解決みたいな颯爽としたイメージは抱いていないんですね。
(あくまで私はですよ)
そして、対陽子は『下僕でいさせて』そんな感じ。
…ちょっと、変わった捉え方をしているかも知れません。だから、支持率は低いとは、自負してます。
もっと表現力があればね、怒涛の説得力が出るのにね。これから精進します。


さて、私、サイト開設以来沢山の皆様にお世話になっておきながらそのお礼が全然出来ないでおりました。
一万ヒットをようやく超えた時でも、何も出来ずに終ってしまったし。
と言う訳で、いきなりですが、このSS、フリー配布とさせて頂きます。(2006.5.12をもってフリー配布終了致しました)
そうですね。名目は…「もうすぐ一万五千ヒットだよ。今まで有難う。これからも宜しく。御礼SS」
で、如何でしょう?(ナゲェーーヨッッ)
期間は、取りあえず、カウンタ一万五千ヒットまでと言う事で。

2006.5.12付 追記 一万五千ヒット超えましたので、一旦配布終了します。貰って下さった方々。誠に有難うございました。


←その一押しが励みになります

2005.4.初稿

素材提供 篝火幻燈さま
禁無断転写

「お願いです、……戴を」

細くやつれた李斎の指が必死で陽子の手を掴むのを見た時、難儀な事になったと、男二人は

思った。

案の定陽子は、このまま戴極国を見捨てる事は出来ないと言う。

一人は軽く叱咤するのが関の山。

一人は黙ったままである。

陽子は、自国を守る為に他国を見捨てるのが王の義務なら、いらぬ、と言い捨て、庭院(なかにわ)

駆け下りた。

二人はそれを、見ているしか出来なかった。








ただ、思い取りて








陽子が去って行った方角を、景麒は大層心配な表情で見つめていた。

それを察した浩瀚は

「どうぞ主上のお傍へ。落ち着かれましたら、お話があるとお伝え下さいませんか」

そう景麒に伝えると、景麒は無言で頷き、流れるような動きで、陽子の後を追った。

「…悪ぃ…俺も休ませてくれ。あの人のあんな姿を見たら、居たたまれなくなった」

普段は無頓着な風を装っていてもやはり仁の獣なのであろう。六太は、憂い顔で尚隆の

顔を見上げた。

「では、少し休むと良い。済まぬが、こいつがゆっくり出来るように、整えてやって

くれないか」

数歩離れて様子を伺っていた女御に尚隆が告げ、六太は女御に促されその場を去って

いった。

そしてそこに残された男は、尚隆と浩瀚の二人だけとなる。

二人の間に、何とも言えない神妙な空気が漂う。

浩瀚は陽子が去っていた方角をちらりと見やった。そして、尚隆に対して礼をとる。

「事情があるとは言え、我が主が無礼を致しました」

尚隆は振り向く事無く、後ろに控える浩瀚に話した。

「…俺に構わずとも良いぞ。仕事に戻ったら如何なのだ」

「小国には余りある賓客をお迎えしているのに、このままではあまりに失礼が過ぎると

いうものでしょう」

浩瀚は静かな声音でこう続ける。

「私ではつまらないかも知れませぬが」

浩瀚の嫌に落ち着いた物腰が面白いと尚隆は感じた。軽く口角を上げ振り向く。

「ではもう少し付き合わぬか」

尚隆は浩瀚の容姿を上から下までしげしげを眺めながら話し出した。

「正直、六太をゆっくり休ませてやりたいからな。このまま、お前達が用意した堂室で

ごろりと横になる訳にも行かなくなった。お前とは二人だけで話して見たいものだと

思っていた所だし、如何だ」

「かしこまりまして」

浩瀚は別の女御に、自分は延王君のお相手をする事になったと冢宰府に伝えるよう指示

した。女御は、こくりと頷くと素早くその場から下がり、そうして一二分もしない内に

二人の元へ戻った。

「掌客殿の別のお堂室へご案内致します。どうぞ、こちらへ」




用意された堂室につくと、尚隆は榻にどさりとその身を投げ出した。

そして浩瀚に目線を送ると

「立たれたままでも、俺が居心地が悪い。座って貰えないか」

そういって、ほうと軽く息を吐き、目を伏せた。

浩瀚は傍にあった、大卓(つくえ)に近付き、傍にあった椅子に腰掛た。

直ぐに女御が、大卓に茶の用意をする。

榻の尚隆に茶を勧めると「大卓(そこ)に置いてくれ」と言うので、大卓には二つの茶杯(ゆのみ)

湯気が上がっている。

浩瀚は湯気越しから、尚隆の様子をじっと見ていた。

尚隆は榻の背もたれに肘を乗せ、そこに頭を預け暫く考える仕草をしている。

そして徐に目を開くと、射抜くような視線を浩瀚に投げかけた。

「お前、あの時、努めて黙っていたのだろう」

浩瀚は尚隆の視線に怯む事無く、わざと居ずまいを正す仕草をし、返事をした。

「何が、で、ございますか」

「とぼけるな。お前も、陽子のあの態度を見て、俺と同じ事を思った筈だ。

だが諌めなかった。俺がいたからな。無視して、込み入った話は出来まい。だがな。

そればかりではないだろう?お前は俺がいた事をいい事に、全部俺に言わそうとした」

浩瀚は、そのまま黙って尚隆を見つめている。

「《さて、何の事やら》とでもいいたげな顔つきだな」

尚隆は頭を預けていた肘を外し、その手でいらいらと頭を掻く。

そして立ち上がると、浩瀚が座っている椅子の向かい側の椅子に座りなおすと、大卓に

肘つき手を組むと、その手で自身の額を預け、二三回小突く仕草をした。

「俺が金波宮に来たのは、先にも言った通りだ」

「積翠台でお話になった件ですね」

浩瀚は身動き一つ崩さず返答をする。それを尚隆は苦々しく見ながら頷いた。

「ああ、そうだ。《はやまるな》そう、あれを諭しに来た。実はお前、俺がそうして

くれればいいのにと望んだのではないか?」

尚隆は意地悪く浩瀚をねめつけた。

浩瀚はそれに動じる事無く黙って佇んでいたが、張り詰めた空気を如何にかしたいと

思ったのだろう。

軽く息を吐き、口を開く。

「如何とって頂いても構いませぬが。……そうですね、私はあくまで景王にお遣えして

おります故、景王が為さる事を一応は黙認していかなければなりません」

「お前も、李斎とかいう女の行動に、何か思わなかった訳ではなかろう?」

更に尚隆は突っ込んだ質問をする。

浩瀚は、一呼吸おく様に目線をあえて尚隆から外した。

見れば飾ってある飾り壷が、冴え冴えとした光を放っている。

浩瀚は目を細めると、改めて、尚隆の顔を見つめこう返した。

「李斎殿の内実は私には計りかねます。人の奥底は、その人にしか分らない。だが、

それだけ自国の為に一生懸命だったのではと思います。彼女は必死だった。

あれを見て、それでも尚、頭ごなしにほうって置けないと思うのも事実」

尚隆は無言のままだった。浩瀚はそのまま続ける。

「《そのまま、捨て置け》と言ってしまえる主であれば、私は今すぐにでも、この役職を

降りる事でしょう」

「だが、激情に任せて突っ走って欲しくはないとも、思っている。その場合、お前が言う

より、俺が、重石になる方が、陽子には遥かに(こた)えるからな。少しは思惑通りに進んだ

といった所なのではないか?」

尚隆はそう言った後、目の前の男が如何出るか様子を伺う事にした。

浩瀚は暫く黙っていた。

尚隆は徐に茶杯を持ち、中に入った茶で喉を湿らせる。

ごくりと尚隆の喉仏が動く様をぼうと見ながら、浩瀚は口を開いた。

「李斎殿が何を思ってこちらに庇護を求めに来たのか。それを、あれやこれや詮索しても、

あまり意味が無い事のように思います。実際彼女はもう、ここにいる。それを見捨てる

我が主では無い事も、先刻の事でよく分かりました。

しかし、延王君が仰る事も当然の事。この問題を解決するには、そう、容易い事では無い。

それを、我が主にも少しはご理解頂けたのではないかと思います。ええ、確かに、延王君の

ご助言は、我等にとって有難かった」

尚隆はふんと小さく鼻を鳴らす。

「それで?陽子は、如何いう決断を下すんだろうな」

「さて、如何でしょう?結局の所、我等はあの方の下僕故、あの方がはっきり決めた事に

口出しは致しません」

「その目は《我が主はきっと良い決断をしてくれる》と自信に溢れているように感じるぞ」

「自信ですか…」

浩瀚は、軽く笑う。

「祈りに近いのかも知れません」

尚隆は浩瀚の瞳に切なげな、しかし強い光を感じ取った。そのまま、その瞳に釘付けに

なる。

「延王君を前にこう言う事を言うのは、どうかとも思うのですが…」

浩瀚は少し躊躇うような素振りを見せたが、思い切って告白する事にした。

「少し前まで私は、このまま仙として生きる事に飽いていたものですから。」

尚隆の眉が僅かに上がる。

尚隆が聞かされていた浩瀚の人となりからは、直ぐに想像出来なかったからだ。

『意外な事を口走る』

一方浩瀚は、勢いで喋ってしまった事で、何か踏ん切りがついたのか。

滑る様に次の言葉を紡ぎ出す。

「官としてこの身を捧げてもう、いく年月にもなります。予王を筆頭に、幾人かの王を

見送って参りました。そして、どんどん無常に感じていった。ここの官吏は王を傀儡にし、

自分達のやりやすいように政を行ってきた。ある程度の事は官吏に任せなければ、立ち

行かないでしょう。だがやはり、最終的に政を司るのは、王自身で無ければならない。

――私はあの方が現れた時、その緋色の髪に燃え盛る意志の強さを感じ、翠玉の瞳に

全てを見据える冷静な力を感じた。私は、最後の賭けと自分に言い聞かせました」

「最後の賭け?」

思わず呟く尚隆を前に、浩瀚は大きく頷きこうも伝えた。

「あの方が胎果の生まれであると言うのも、これまでと何か違うものを感じていたのかも

しれません。何せ隣国には延王君、あなた様がいらっしゃったから」

浩瀚にそう言われ尚隆は小さく息を呑んだ。

「笑われるかも知れませんが。十二国二番目を誇る大王朝を統べているのが、胎果の生まれ

である、延王君である。そんな事さえも、私が縋る拠り所には十分だった」

浩瀚は自嘲気味に俯き微笑する。

「ご存知でおりますでしょうか。私は一度主上から、罷免を受けている」

「まぁ、大体の事は聞いている」

尚隆は言葉少なげに返答した。

それを浩瀚は驚いた風でもなく、淡々と受け止め、話を続ける。

「そうですか。ご存知でしたか。…あの時も、私は何故か落胆はしなかった。他の者は、

やはり今回もと嘆く者も多かったが、私の何かがそれをさせなかった。もう、一度、

もう一度だけ信じてみようと」

浩瀚は自分が何故こんなにも多くを語るのか、言いながら不思議で仕方が無かった。

普段明かす事の無い胸の内を、何故、今、目の前の男に吐露しているのか。

疑問を持っているにもかかわらず、止めようにも止められぬ。

浩瀚は己の行動に戸惑いつつも、尚隆に話続けていた。

「あの方は、見事、私の期待を請け負ってくれた。いや、それ以上だった。それを私は

目の当たりにしてしまったから…。

確かに今回の件、少々難渋するでしょう。それが分るから、はやまってみすみす国を

傾けたくは無いと慎重にもなりとうございます。だが、それを分った上で…」

「静かに見てみようと腹を括ったのだな」

尚隆の落ち着いた声音が浩瀚の腹に響いた。

浩瀚はぐっと尚隆の瞳を捕らえると、神妙な面持ちで頷いた。

「…出来る限りの補助はこれからしようと思います」

「ああ!お前等の考えている事はさっぱり分らぬ。酔狂にも程がある。俺は所詮、他国の

王ぞ。雁国に被害が及ぶ事あらば、それは是が非でも止めるからな」

尚隆は大げさに手を振り上げると、立ち上がった。

浩瀚も即、椅子から立ち上がり礼をとる。

「陽子がお前の《祈り》とやらを、しっかり汲んでくれているといいな。――付き合って

くれて感謝している、もう、仕事に戻るが良い」

「失礼致しました。私も、お話を聞いて下さり、感謝しております」

浩瀚は深々と頭をたれると、そのまま静かに堂室を後にした。




扉が閉まるのをじっと見据えながら、尚隆は一人ごちた。

「全く、どいつも、こいつも、あの小娘に何かを感じるとは、な」

雁州国に知らせが届いた時、尚隆自身、心がざわついて仕方が無かった。

諭さねばならぬ、そう思ったのも、事実。

が、一方で、あれなら何かするやも知れぬと、淡い期待をもった事も事実である。

「それを間近で見てみたい等と、誰が言えたものか」

小さく吐き捨て、苦く笑う。

目の前には問題が山積である。

それを御座なりに出来るほど、天とは甘いものではない。

それは、尚隆が500年という途方も無い年月をやり過ごしてきた間に、十分身体に染み

付いた。

「あまり俺に面倒な事を頼んでくれるでないぞ。只でさえ俺は忙しいのだ」


―なぁーに言ってんだ、おめぇはよ。結局その面倒事、一気に引き受けてしまうんだろ


言葉は悪いが耳に心地よい、六太のぼやきが聞こえたようで、尚隆は忍び笑いながら、

遠き空を見る。

空は嫌味な位晴れやかな晴天であった。