この話はAlbatross様の「子連れやもめフェア」にて、「月下の華」の朱姫様がお寄せになった
(Albatross様ではHNを竣様と名乗られてます)「星の降る夜」に、私が感動し、そこから妄想を
送りつけた話です。朱姫様、その節は有難うございました。ここでは、自作のみ公開致しますが、
ベースの話になっている「星の降る夜に」をお読みになりたい方は、是非ともAlbatross様の
「子連れ・やもめフェア」へ行ってみて下さいませ。

因みに登場人物の《星花
《秀達》は、朱姫様がお作りになったオリジナルキャラです。
星花は利達の妻、秀達は利達の子となっております。


散り花を眺め、昔を想う 

「私はどうしようもない、弱く、勝手な男だ」

星香(せいか)が好きだった花がふわりと中に舞う。

利達はその花弁を一枚拾うと、寂しそうに、そして慈しむ様に口付けを落とす。

「星香。私の愛しい妻よ。そして、もう、二度と抱く事叶わぬ儚き女よ。

…あの時、私は若かった。そして未熟だった。

今でも後悔している。あれは、あれは、私が死に追いやったのだと。

その罪を背負って私は生きていかねばならぬと」

利達は空を見上げながら、遠く苦い思い出を手繰り寄せる。




王宮に入ったばかりの頃、利達はあまりにもの忙しさに、目が回りそうだった。

下界で暮らしていた頃は、妻、星花とも仲睦まじかった。

しかし、ここでの生活が長くなればなるほど、利達は心に余裕がなくなっていく。

『どうして私だけがこんなに忙しいのだろう。毎日毎日、仕事をこなすのが精一杯で、

疲れてしまった。どうかこの忙しさを、誰か分かってほしい』

利達は誰に言うでもないが、その想いを、いつも心のどこかに抱えていた。 

次第に、星香との時間は取れなくなって行った。

寂しそうな顔をする彼女だが、利達は

「この国をよくする為だ。仕方ないだろ」

そう諭していった。

星香も頭では心得ていたが、慣れない王宮暮らし、頼れる我が愛しの夫は、激務で

甘える事は出来ない。

以前はあんなに明るかった星香は、日増しに物静かになっていく。

そんな星香の心の変化を、利達は気付いてやれなくなっていった。

いや、気付いていたが、見なかった事にしていたと言った方が正解か。

「以前ほど星香の相手をしてやれないのは、すまないと思っている。

しかし、私は疲れている。それを分かってほしい」




その日も利達は、疲れた体を奮い立たせ、星香との秘めやかな時間を共にする。

本当は少しでも多く睡眠をとりたい。

しかし、利達は今の己の精一杯の優しさで、星香を満足させようと努めていた。

暫く眠ったのだろうか。

気が付くと、幾分艶っぽい輝きを放つ星香の柔らかい胸の中だった。

星香は利達が気づいた事を見計らって、こう申し立てた。

「子を欲しい」と

利達はこの所相手をしてやれない後ろめたさもあったし、何より星香が以前の様に明るく

なれればと考え、この事を許してやった。




二人の子は秀逹(しゅうたつ)と名付けられた。

秀逹が育つにつれ、奏は少しずつ落ち着きを取り戻しつつあった。

利達は忙しいながらも、星香との時間を多く取れるようにもなり、星香も以前は利達に

寄りかかるばかりの生活から、子を持ち、母として生きる楽しみを見出し、彼女を

強くさせていった。




しかし、そんな幸せな生活も、ある事件をきっかけに終わりを告げる。

秀逹が三歳の時、星香・文姫と祭りに出かけ、その日に星香がうっかり手を放してしまい、

秀逹がひらひらと飛んでいた蝶を追いかけて馬車にはねられてしまった。

そして、そのまま冥界へ旅立ってしまった。

利達はただ悲しくて、悔しくて、後悔しようにも、もう秀逹は戻ってこないのが、

ひどく腹ただしくて、その怒りを星香にぶつけてしまった。

「秀逹は、私の、私の、大切な一人息子だったんだ。それをどうして!」

「…」

「少しは落ち着いたとはいえ、まだまだ王宮は問題が山積みだ。今日だって、急な用事

がなければついて行った筈だったのに。あぁ、そんなの後回しにしてでも、お前たちに

ついていけば良かった」

星香はだまって、ただ泣いている。

その様子を見るにつけ、利達は言い知れない苛立ちが募っていく。

そして、自分でも理不尽な事を捲くし立てる。

「それよりも、私が行けなくなったんだ。わざわざ祭りなんか行かなければよかった

だろう。何故、勝手な事をしたんだ!」

見かねた文姫が

「兄さん、言いすぎよ。もう何も言わないであげて」

と止めに入るが、利達はもうどうにも止まらなかった。

当時の利達は若かった。

若さゆえに、無抵抗の我妻に、逃げ場を与えぬほど言葉で追い込んでしまった。

そしてついに星香を闇に落とし込んでしまった。


「お前は太子の妻の癖に、子を一人、守る事も出来ないのか!」


気づいた時には遅かった。

星香の瞳に生気が無くなった。目は開いているのに何も見ようともしない。

すべてを拒否してしまったのだ。




暫くして、星香が己の首を冬器で傷つけ自殺した。

虫の息の中、星香の言葉が利達の心を深くえぐる。

「ごめんなさい。あなたと一緒には生きられないの。わたしを許して…。」


『ここまで追い込んだのはまぎれもなく私。

仕事が辛い、家族との時間がなく寂しいと思うは、お互いに同じなのに。

私は、自分が、自分だけが苦しいのだと思い込み、星香の心を理解してやれなかった。

そんな私とは共に生きれないと、星香は言うのだろう。

あぁ、私はなんという事を。取り返しのつかぬ事をしてしまった』




500年経った今でも、えぐられた心は空虚のままである。

ぼんやりと散った花弁を眺めていると、背後より利広がたたずんでいた。

以前、利達は利広に言われた。

「―兄さんはもう恋をしないのかい?」

はぐらかそうと思っていた。

でも、あまりにも利広の真剣な表情を見ると出来なかった。

「―ああ、俺はもう恋はしない。一生で愛するのはたった一人で良い。」 

その事を思い出し、利達は背後にいる弟に静かな低い声で話し出す。

「利広。お前の大事な者、しっかり離すんじゃないよ。利広が寂しければ相手も寂しい。

だから、相手がどんなに平気な顔をしていても、しっかりと抱きしめてやれ」

「…うん。これから、そうしてくるよ」

利広はそう言い残すと、広い雲海を飛び去っていった。





















































































































































































































              私は利広より、利達の方が好きだったりします。自国を守る為、お父ちゃんのサポートの為、
              奏南国でてきぱき働くお兄ちゃん。しかも、真面目で出来る男とくれば、これが好きにならずにおれましょうや。
              朱姫様のご作品を堪能した時、もう、もう、「キタァ〜〜〜」と、卒倒したんです。
              だって、仕事は素晴らしく出来る、しかしつい家族を顧みなくなってしまった、
              サラリーマンの悲哀みたいなモノを感じたのです。(又勝手にそこまで話を引っ張る。しかも、リーマンって…。)
              後はもう妄想が走る走る。勢いで送りつけてしまいました。
              息子が死んだ時、自分の所業は棚にあげて妻を言葉で追い詰める部分。
              アレは一種のドメスティックバイオレンスですね。
              他にも沢山みえるであろう、利達好きには申し訳ないのですが、狙ってそうしています。
              何て自分勝手な男なんでしょうね。でも、ありがちだと思いますよ。
              無抵抗である相手に知らず自分のイライラだけを押し付けるって。
              それが、どんなに非道な事かは、その時は全く気付けない。故に後悔する。
              朱姫様の話に乗っかって、もう、自分の趣味満載に妄想を書き付けました。
              朱姫様、重ね重ね有難うございました。
              又、別件で利達話は書きたいです。
              今度は明るめのお話で。ただ、何時になるやら見当もつきませんが…。(おいおい;)
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              2004.6.初稿

            2005.8.改稿

           素材提供 ぐらん・ふくや・かふぇ さま
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