このお話はAlbatross様の秘蔵閲覧室、雅姫様のご作品
            「通販双書 十二国雲上の愛憎劇記〜茶碗一杯分の愛・慶国編〜」で、目録製作者の藍滌と、お客様尚隆の
            やり取りを妄想してしまった作品です。最後数行のオチが言いたいが為に、やらかしたとも言えます。
            あいも変わらず、無責任に人様の作品で遊んでおりますね。あの、面白い作品にぶつかると、
            「あれはどうなのかな。これはどうこの先展開するの」と、思いが膨らんでしまい、ま、す。
            こんなの書き付けて、それが元ネタ作者様の思惑と違っていて、「その考えは私にはないの」と、ご不快に
            思われないかと、正直ビクビクしてるんですけどね。
            今回も雅姫様の、お優しさのお陰で、こうして残す事が出来ました。
            さて、藍滌はここでは「猿(と書いてエンと読んでもよろしくてよ、なのです)回しの回し手」ですね、正に。
            (尚隆好きぃの方ごめんなさい。)
            尚隆をかるーく、おちょくりつつ、ある意味では賢帝と認めている、藍滌はそんな感じで。
            何だろう、藍滌にはいつでも飄々とした色男でいて欲しい、というドリームがあるんですわ。
            陽子の事に対しても、それはあなたの所の問題だからと一見冷たい様でいて、なし崩しに無視にはしない。
            熱い人でもないけど、冷酷でもない、彼独特の心の温度があるんじゃないかなぁ。
            ←その一押しが励みになります

            2004.9.初稿


            素材提供 篝火幻燈さま
            禁無断転写

星の王、雁州国へ行く −もう一つの通販双書− 

尚隆は今日も不機嫌だった。

下心があったと言えば否定はしない。

ここ最近、変わりばえのしない毎日である。

そう言えば隣国の、華の様な少女王は如何しているのだろう。

しかし、こちらから出かけるにしても口実がなければ。

そんな考えをぶつぶつ巡らせていた尚隆が、おもむろに手を取ったのは

一冊の通販商品目録。

「どうせなら、うんと華やかに、あれが一目見て心奪われるものを。

…おっ、これはいいな。さぞや似合うであろう」

尚隆が通販商品目録を片手に、目じりがいやらしく下がっていた事は、

のちに近くにいた女御から噂の種となる。




尚隆が、陽子に贈り物をして随分の日にちが過ぎた頃、玄英宮に賓客が来る。

それは尚隆にとって、期待していた者ではなかった。それよりもむしろ…。

「おい、あれから陽子が俺の贈った物を纏ってこちらに来るかと思えば、

一向にそれは来ず、代わりにお前がじきじきにご挨拶とは、面白くもない」

型通りの挨拶もそこそこに、尚隆は落胆した様子で、迎えた賓客、呉藍滌に毒づいた。

「全く、品のない物言いだねぇ。これでも、礼を述べようと来てやったに」

尚隆の不機嫌ぶりも、藍滌にとっては、面白い遊びのひとつなのだろう。

ゆったりと扇を弄びながらくつくつと笑っている。

「商品をひとつお前の所で買っただけだ。わざわざくる事もないだろう」

それは本当の事だった。範国の商品目録はあの天帝も御用達の物である。

確かに尚隆の選んだものは、商品の中でも最高級の位置にあるものだが、

気まぐれに買っただけ。他に常客がたくさんいる中で、王自らが礼を述べに来た

というのは珍しい事なのである。

藍滌は含んだ所のある笑顔を見せた。

「それが面白い展開になってねぇ。そなたの贈り物から、話があらぬ方向へ

動き出し慶で陽子に贈り物をしたいと皆がこぞってわらわの国の通販商品目録を

使ってくれるのじゃ。おかげで売上は去年の3割増。財政も潤ったのでな」

それを聞いた尚隆は、身を乗り出した。

「な、なんだ。その話は」

そこまでに至った経緯はこういう事らしい。

慶国の冢宰である浩瀚がなにやら、いそいそと通販商品目録で探し物をしていた。

それをたまたま見ていた桓堆が、問いただして見ると、ある人に贈るのだという。

浩瀚とは長い付き合いになる桓堆である。贈る相手が誰なのかは見当がついた。

そして思う。

『俺だって、主上には日頃から感謝しているんだ。なにか、俺も贈り物をしたい』

桓堆は早速、通販商品目録の資料請求を求めるといった内容を、青鳥を使い範国へ飛ばす。

以下、桓堆の様子を見た禁軍の者をはじめ、様々な者が我も我もと陽子に日頃の感謝を

込めての贈り物をするという事が、慶国で流行った。

蓬莱で言う《お中元》《お歳暮》のような物である。

この流行も始めの内は心温まるものの筈だった。

しかし、この頃はこれを出世の道具に使おうと、浅ましい事を考える官もいるらしく、

正直手を焼いている、あまり酷い様であれば、今後一切の謙譲物は廃止すると

勅命を出そうかとも思うと、陽子が零していたという事を、藍滌は話した。

「おい、そんな賄賂みたいなことが、慶で横行していいのか」

尚隆は不安になった。せっかく持ち直した国である。

そうやすやすと斃れてしまっては困る。

「お前はどう答えたんだ?」

「慶国の流行は範国にとって、願ってもない機会であろ。それを、やすやすとわらわが

逃すまいて。それに、わらわが慶の事情まで心配するゆわれも無いしの。さりとて、

このままゆき過ぎるのは確かに見ていてあまり気持ちのいいものでは無いのも確か。

わらわは陽子に貰った物はもうそなたの物じゃから、どの様に扱おうがそなたの自由

じゃないのかえと答えたが」

「相変わらずだな、お前は。まぁそれ位でなきゃ王は持たないか」

尚隆は肘をつき手を組み直すと、ふっと不適な笑みを浮かべる。

結局、自国の事は自国で、ある程度は解決しなければならないのだ。

それに対する助言はしてやってもよいが、あまり踏み込んだ真似はこちらから

してはならぬ。

簡単に助ければ相手はそれが当たり前になる。

そして依存する。

ついには状況が悪くなった時、それを人のせいにしたがる。

《恩が仇になる》蓬莱でそういう言葉があった事を、尚隆は思い出していた。

「陽子は如何するかな」

「さぁ?陽子も馬鹿ではあるまいて。貰う物は貰うが、後は知らぬとそれは公明正大な

人事をするだろうよ」

「それに」そう言って藍滌は面白そうに話し出す。

「陽子もなかなかでもないと見える。実際、王が自由に動かせる金等、殆どない。

聞いた所によると、この頃陽子は丁重に受け取った挙句、重複した品物、必要ない品物は

こっそり売りに出しているそうじゃ。わらわの国の物じゃ、結構な値になるからねぇ。

それで陽子は万一の時の貯えをしているらしい」

それを聞いた尚隆は、陽子の逞しさに大笑いした。

一見贈った者に対しては失礼極まりない事なのだろう。

しかし、それがかえって「私に媚びへつらっても無駄である」と無言の内に語っている

様にも思える。

それに、彼女の事だ、これによって得た収入はきっと活きた事に使うのだろう。

「陽子も面白い王になっていくなぁ」

尚隆は陽子を想い、目を細めた。




ふと、尚隆はある心配を仕出した。

「ま、まさか、俺のも。」

すると藍滌は扇を広げると、口元へ持っていき、すまして言う。

「自分で確かめるがよろしかろ。他の手土産を持って。なんでも陽子は焼き物が

好みらしいぞえ」

そして、最新刊の通販商品目録を、趣のある彫刻を施した箱から取出した。

「…お前、結局それが目的か」

ちっと舌打ちをしつつも、新刊を懐に収める事を忘れない尚隆であった。






―おまけ―

『陽子は《浩瀚が送ってくれた》焼き物だから、気に入っているようであったが…

それは黙っているのが筋であろ。猿をおちょくる面白き事。そうやすやす、

つまらなきものにさせぬぞえ』

等と、藍滌が扇子の奥で含み笑いをしていたかどうかは、彼だけが知る所である。